BADDYについて

2017年6月30日、宝塚歌劇団公式ホームページにこんな文章がアップされました。

 ショー・テント・タカラヅカ

『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』

作・演出/上田 久美子

舞台は地球首都・TAKARAZUKA-CITY。世界統一され、戦争も犯罪も全ての悪が鎮圧されたピースフルプラネット“地球”に、月から放浪の大悪党バッディが乗り込んでくる。バッディは超クールでエレガントなヘビースモーカー。しかし地球は全大陸禁煙。束縛を嫌うバッディは手下たちを率い、つまらない世の中を面白くするためにあらゆる悪事を働くことにする。彼の最終目標はタカラヅカ・ビッグシアターバンクに眠る惑星予算を盗み出すこと。しかし、万能の女捜査官グッディの追撃が、ついに彼を追いつめる!

なお、この作品は演出家・上田久美子の初のショー作品となります。

 

月組公演 『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 宝塚ファンが日々チェックする公式ホームページ。ちなみにこの公演の初日は2018年2月9日です。

宝塚ファンが公演について与えられる情報は

公演日程(前年4月末頃に翌年分が公開、演出家の予想などをする)

作品タイトルとこのような公演の概要(初日の約半年前 2017年6月30日)

先行画像(初日の約3か月前 2017年10月26日)

ポスター画像(2017年11月5日)

なのですが、先行画像とポスターについてはお芝居のみのことばかり。

初日まで私たちに与えられた情報は上記の概要と上田久美子ショーデビュー作。それだけでした。

ここで私の思う上田久美子先生について簡単にお話しします。

彼女はこれまで宝塚で悲恋ものを演出し、高評価を得てきました。作品は個性的でメッセージ性が強く、確固たる信念貫くことを美とする。ともすれば独善的なもので、誰しもに愛されるというよりも、根強いファンを生む作品が多いように思います。強く感情を揺さぶられるので何度も見るのはつらい。若手まで満遍なく起用し組子ひとりひとりの見せ場を作るよりも、演者のキャラクターに合ったいわゆるアテガキが得意で、ときに香盤順に沿わないことも。しかし彼女の脚本・演出はいつも圧倒的にクオリティが高く、誰しもがその才能を認めざるを得ない。そして洗練されていて、ダサい部分がない。無駄なシーンや彼女の意図の外で観客に引っかかるところがない。そんな演出家だと思います。

ピースフルプラネット」「全大陸禁煙」「バッディは超クールでエレガントなヘビースモーカー」「万能の女捜査官グッディ」などなど詰め込まれたパワーワードに否応なく心が躍ります。しかもショー作品でも通し役がつきストーリーがあるものであることがうかがえます。彼女のアテガキはいつもとても的確で、演者と役柄が地続き。私はこの作品をとてもとても楽しみにしていました。

初日の評判も上々、ムラ組の皆さんは次々とバッディをおかわり。高まる期待…。今回私は遠征予定がなかったため、東京公演まで辛抱強く待ち、ついに3月31日を皮切りに計4回観劇しこのエントリをしたためております。

 

あの、有り体に言って最高。

ストーリーは一切の悪いことがない地球から始まります。暁千星さん演じる王子様(圧倒的陽のオーラ、172センチのショタ。かわいい)は「わるい」という言葉すら知らない始末。そんな地球の平和を守っているのはグッディ捜査官!月に閉じ込められていた大悪党バッディ一味が地球に遊びに来るところから始まります。つまらない世の中を面白くするためにバッディたちは大暴れ。グッディ捜査官は逮捕しようとするもことごとく失敗。彼女が初めて感じる恋、怒り、いろんな感情。いつしか2人は惹かれあうけれど…。

期待以上です。とにかくもうトップスターの珠城りょうさん演じるバッディがかっこいい。宇宙一悪党なんだけど、人を殺したりとか誰かを傷つけたりとか、弱いものを虐げたりしないんです。宇宙一悪党なんだけど、悪役じゃなくてかっこいい主人公なんです。そんなバッディの「俺のスイートハート」美弥るりかさん演じるスイートハートは中世的な男性(だよね?)で、色気の権化です。バッディとは公私ともにパートナーといった関係性。愛希れいかさん演じるグッディ捜査官はとにかくキュートで強くてなんでもできちゃう!彼女のお衣裳も見どころのひとつです。書き出したらキリがないのですが下級生に至るまで得意のアテガキ炸裂。洗練されていて最高にクール!細部に至るまでダサい部分!?なし!!!

しかも通し役なので下級生に至るまでそれぞれが舞台で生きていて、1回目より2回目、3回目より4回目と回を重ねるごとに体感時間が短くなっていく。月並みすぎる発言で恐縮ですが目が足りない。組子たちが作品を愛し、それぞれの輝きがいつもより強く、それが作品全体の輝きにつながっているように感じます。例えば月から来た悪党の宇月さんが地球の王女様のわかばちゃんと惹かれあうんですが、それについて一言もセリフがないのにとても深いお芝居をしているので1度通しで見てほしいです。苦々しい表情でハンカチ返すところが好きです。

つい物事を白か黒かで見て思考停止してしまう短絡的さが結局自分の首を絞める。曖昧なグレーこそが自然で多様性を許容すべきといったメッセージそのものはありふれたものですが、見事に良質なエンターテイメントとして昇華していてさすがです!もっと見たい!チケットない!